4月23日、弁当の日プロジェクト実行委員会主催で、「弁当の日プロジェクト講演会」が上田市文化センターにて行われました。講演会では、「弁当の日」の提唱者である竹下和男先生より、ご自身の小学校の教員や校長時代のご経験から、弁当の日を始められた経緯や実践の様子を教えていただきました。

弁当の日とは、子どもが年に数回、自分でお弁当を作って学校に持ってくるという取り組みです。何を作るか決めることも、買い出しも、調理も、お弁当に詰めるのも、片付けも、すべて子どもがします。先生が勤めていた小学校では、5・6年生の児童が家庭科で調理の仕方を学んだあとに、年5回ほど行っていたとのことでした。
弁当の日を始めたときには、「親の負担が増える」、「子どもにそんなことはできない」、「そもそもやる必要があるのか」など、不安の声が多くあったそうです。しかし実際に始めてみると、よい変化がたくさん現れはじめました。
弁当の日には、子どもたちは給食の時間まで待ちきれず、休み時間に自分たちのお弁当を見せ合うそうです。最初のお弁当の日は、自力で作ってくる子もいますが、親に手伝ってもらったり、ほとんど親が作ったりしたお弁当が少なくありません。そんな中、自分で作った子どもたちは誇らしくお弁当を見せたり、見せてもらった子どもが「次は自分で作ろう」と思い実際に作るようになったりするそうです。友達を「あっと言わせたい」、「驚かせたい」という思いや「自分でもお弁当作りたい」という気持ちが相乗効果を生み、最終的にはほとんどの子が自力で作れるようになるそうです。

また、弁当の日は、子ども達だけではなく、親子のコミュニケーションを生み出すきっかけにもなります。例えば、以前はスーパーへ行っても雑誌やお菓子コーナーにしか興味がなかった子どもが、弁当に日をきっかけにして、お母さんとお肉や野菜のコーナーを回るようになり、産地や鮮度について一緒に話したりするようになったそうです。また、あまり料理をしなかった親が子どもに料理について質問されることが多くなり、「教えられるようになりたい」と台所に立つ頻度が増えるようになったというお話もありました。
特に印象深かったの、「作れない 弁当ひとつ 自分では」という言葉を発した子どものお話です。その子は自分でお弁当を作りながら、「この弁当は自分が作った。だけど、自分は野菜を作っていない、魚も採っていない、スーパーにも並べていない、調理器具も作っていない…」という具合に、「自分がやっていないこと」に気づき、考えを巡らせたそうです。このように、単に知識として知っているのではなく、自分の手を動かし、身の回りのことに気づき、感謝できることはとても大事な事だと思わされました。
講演の中で、竹下先生は、私たち大人が日本中で子どもたちに「大人にならなくていい」というメッセージを発していることに強い危機感を抱いていました。つまり、子ども時代にすべきことの最優先は勉強や競争に勝つための力を身に付けることであり、「いつか作れればいい」、「いつか自立するだろう」という考え方が、子どもの自立を妨げ、大人になることを妨げているということです。そのような状態を改善したいという強い思いから、活動を続けているとお話されていました。
「弁当の日」は技術習得のためではなくコミュニケーションのためにあり、この活動は料理や子育てを「楽しく」できる大人の数を増やしていく、大変意義のある活動の一つなのだと思いました。
