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野生動物の生と死を知るー岩村田高校で骨の標本作成実習

 佐久市岩村田の長野県立岩村田高校で1月28日,交通事故や駆除などで死亡した野生動物の頭骨標本を作成する実習が行われました。NPO法人生物多様性研究所「あーすわーむ」(参照https://sakusapo.com/blog/asamawildlife/)の主任研究員福江佑子さんの指導を受けながら,同校の生徒8人が昨年6月に解剖した野生動物の頭骨標本を作成し,頭骨標本から野生動物の生と死についてさまざまなことがわかることを学びました。

 標本作成の前に,福江さんが「骨から何がわかるのか」という事前学習をおこないました。

標本作成前の事前学習

 はじめに「人との野生動物の軋轢」の中で多くの動物が死んでいる現状を説明します。タヌキやアナグマ,テンが交通事故で,アライグマやノウサギ,カモシカが「くくり罠」(ワイヤーが野生動物の足を括り捕獲する仕組み)で,ツキノワグマやミンクが駆除(農作物被害や外来種によるもの)で死亡している。ムササビは別荘から出られなくなり死亡したケースもありました。このほかにも,野生動物の死亡原因には,イヌやネコなどのペットによるかみ殺し・捕食,ペットからの病気(ジステンパー,疥癬など),網や有刺鉄線の「ひっかかり」などがあります。鳥では窓にぶつかる激突死(バードストライク)があると述べました。

 そのうえで,福江さんは,野生動物の体は,その個体の生や死―どのように生き,どのように死んだのか―を反映しているため,骨も個体ごとで異なっていると指摘します。だから骨をよく観察すれば個体の命がどうだったかがわかるというのです。とくに頭の骨はもっとも動物のことがわかるといいます。なぜか。(1)情報を集める目・耳・鼻がある(2)食べるために口がある(3)考える脳がある(4)長い時を経た進化の結果である美しさがある(5)種内で比べる場合,サイズ(大きさ)の変異が小さい,と説明します。

 たとえば,(1)について,目が頭のどこについているかという例で,ネコとウサギを取り上げました。ネコは前面にあり,ウサギは側面にあります。捕食する側であるネコは,前方の120度の範囲が見えるようになっています。一方,ウサギは捕食される側で,できるだけ周囲の状況を知らないといけないので,ほぼ360度見ることが可能です。(3)について,二足歩行のヒトと四足獣のイヌを比較すると,脳函(脳を囲んでいる部分)はヒトが大きく,鼻はイヌが長くなります。

 また,骨から雌雄や年齢の違いを観察できるとして,次のように説明しました。アライグマなどでは、頭骨と犬歯はオスが大きく(オス,メス間での体サイズや形態の違いをいう「性的二型」のうちの一部),成長のピークを達するまで,頭骨と頭骨の骨の丈夫さ(骨化)は年をとるにしたがって大きくなっていきます。

 さて,標本づくりです。その前に,福江さんは,生徒にせんべいを配り,食べるようにいいました。「どの歯を使って食べるか,よく考えておいてください」。

生徒たちは頭骨の標本づくりに集中していました。

 化学実験室で,8人の生徒は,周りの筋肉や軟骨が取りやすいように処理された頭骨を一つずつわたされました。手袋をはめ,ピンセットを持ち,骨についている筋肉などを丁寧に取り除き,小さな骨がないかどうか,除いた肉片を指で探っていました。1~2時間かけて付着物を取り終えると,水道水で頭骨を洗い流し,湯に通して油分を除去しました。頭骨は水気を取ったうえで,新聞紙を折って作った箱に収められました。この間,生徒たちは無言で作業を進め,私語はありませんでした。

 高校3年の女子は「この春,生物学科のある大学に進学します。ペンギンに興味があります」といい,ツキノワグマの頭骨を標本にしていました。また,将来,生物系の大学に進みたいという高校1年生の男子は「集中力が必要でしたが,楽しめました」と話しました。

 実習後,福江さんは,せんべいを食べたとき,まずは前歯(切歯)で折り,奥歯(臼歯)でかみ砕いていた点を,生徒たちに思い出させ,説明しました。哺乳類でも,肉食性のミンクは臼歯の数が少なくなり、シカやカモシカは上あごの切歯と犬歯がありません。雑食性のイノシシには上下あごに切歯,犬歯があります。歯から年齢も調べることができ,歯を薄くスライスして年輪を数えて年齢を推定することが可能ですといいました。

 最後に福江さんは「歯の並び方から動物の種類が,歯の特徴からどういったものを食べているかもわかります。また頭骨の大きさや形からは,性別や年齢なども知ることができます」と,歯や頭骨の観察から多く事実が見つけられることを強調しました。


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