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ろう者のコミュニケーション向上のために「手話言語」を広めよう~佐久聴覚障害者協会の講演会

 「耳の日」(3月3日)にちなみ,聴覚障害と聴覚障害者に対する理解を深め,福祉の増進を図ることを目的とした講演会が3月19日,佐久市の中込会館で開かれました。佐久聴覚障害者協会(岡村和人会長)の主催で,佐久市議15人を含め62人が参加しました。一般財団法人全国ろうあ連盟(JFD)理事の嶋本恭規さんの手話言語による講演「ろう活動を通じた国際活動について~国際活動から考えること~」に目を向けていました(手話言語通訳による音声通訳もありました)。

国際活動の経験を手話言語で伝える嶋本さん


 嶋本さんは,社会人になってからろう者の先輩から手話を習ったことや,世界ろう連盟(WFD)アジア地域事務局の副事務局長に携わった経験などをもとに,主に3つのポイントについて話をしました。
 まずは世界とアジア,日本のろう者数と,手話言語ができる人の数です。
 嶋本さんはこう話します。WFD前理事長のコリン・アレン氏から聞いた話ですが,世界保健機関(WHO)は世界の人口約70億人の1%が聴覚障害を持っている推定しています。つまり聴覚障害者は7000万人と推計されます。このうちの3%(210万人)が「手話言語」でコミュニケーションをとっているとされています。つまり,残り97%は手話言語ができないということになります。たしかに,読唇術や発声を用いて行う「口話」や筆談でコミュニケーションする人もいます。ただ,最悪なことですが,こうしたコミュニケーションが取れず,家に閉じこもっている人も少なくないと思います。だから多くの聴覚障害者(高齢で難聴となった人も含む)が手話言語を覚えてコミュニケーションができるようになるといいと思うようになりました。
 また,同氏によると,アジア地域の人口は世界の半分を占める35億人で,世界で見ると中国が1位,インドが2位,インドネシアが4位とアジアが上位を占めます。日本は10位です。アジアの聴覚障害者は推計3500万人ですから,このうち手話言語ができる人は105万人と推定されます。欧米はバイリンガル教育が進み,手話言語ができる人の率はアジアより多いと思います。
 日本はどうでしょうか。「聴覚障害者」は35万人(厚生労働省公表)です。ただこの数字は障害者手帳を持っている人をもとにしていますから,聴力のレベルの問題で手帳を取得できない人もいます。もしこうした人を数字に入れると,もっと増えるかもしれません。このなかで手話言語ができる人はどのくらいいるのでしょうか。JFDなどが調べましたが,情報は公開されていません。いまのところ「5万人」くらいといわれています。
 日本を含めアジアでは聴覚障害者に手話言語を覚える機会が与えられているのでしょうか。手話言語は教育されているのでしょうか。残念ながらそうではありません。私も学校で「手話言語」は何も学んでいません。社会人となってから,ろう者の先輩から教えてもらいました。WFDアジア地域事務局で活動するになってからは「国際手話」を覚えました。健常者にとっての人工の国際語「エスペラント語」と同じと言っていいでしょう。国際手話でいろいろな国のろう者と話ができるのです。
 次に,アジアの女性のろう者の問題・課題の話です。ある女性から労苦,差別の実態をうかがったことがあります。女性は,兄夫婦と暮らしています。兄夫婦の子どもの世話をしたり,家の掃除をしたりして,食事はとっていますが,生活自体は兄家族と暮らしているので問題ありません。だが,いつまでもこの生活を続けていくのか?私自身も将来、彼女が結婚するなどといった希望を持てるのか見通しも持てていません。

 まったく別のことですが,アジアではこういう体験もしました。講演をした後,女性が着いてきて,「お金が欲しいから,お世話をする」と,身振り手振りで訴えます。手話言語もできず,字も書けません。今日,明日を生きていくための手段として体を売っているのです。生きるために努力をしていないわけではないのに,そうするしかないのです。そうした女性も,現実にいるのです。こうした女性の問題について話し合う女性だけの会議が,アジア地域事務局では6年間続いています。
 さらに,障害者権利条約(CRPD)の内容と現実への適応の実態です。
 CRPDは2条で手話を言語として認めています。13条は司法へのアクセス平等がうたわれていますが,手話言語通訳や点字などの費用には触れていません。17条は個人をそのままの状態で保護するとしています。しかし,障害者は強制不妊手術など許されないことをされています。
 21条は表現及び意見の自由並びに情報利用の機会の平等を定めています。しかし,「遊び」の場合にもほぼ通訳派遣は認められません。たとえば,聴覚障害者が釣りに行って通訳がいれば「聞こえる人」とも関係を結べます。人間関係が広がるのです。「遊び」には通訳が認められないことに落胆しています。障害の有無にかかわらず,何人も人生を楽しむべきではないでしょうか。
 24条は障害者の教育の権利を規定しています。このなかには障害者も地域の学校に通う「インクルーシブ教育」も示されています。障害者は,特別支援学校における教育と,地域の学校で障害のない子と一緒に受ける教育のいずれかを選択することができます。

 “分離された教育をやめるよう”にと勧告されています。インクルーシブ教育に反対しているわけではありませんが,急いで行うことには無理があると思うのです。ろう者は,ろう学校をなくすことに賛成はしていません。地域の学校の先生は障害者教育をきちんと学んでいません。これでは障害者に十分対応できるとは思えません。国連の障害者権利委員会に聞いたところ,障害のある子も障害のない子も,プロセスをきちんと踏んで教育を受ける権利があると答えてくれました。
 インクルーシブ教育を定着させるには日本社会を変える必要があります。しかし急激な変化は混乱を招きます。変化は段階的に進めていくことが大事です。聴覚障害,視覚障害,知的障害,身体障害など,多様な障害ごとに知識を持つ教員の育成が必須で,その支援が必要となります。
 29条の「政治的及び公的活動への参加」の権利に触れ,こう指摘しました。街頭演説会などで手話言語通訳者を通じて演説内容を伝えるべきです。このためには公職選挙法を改正し,手話言語通訳者が報酬を得られるようにしてほしいと思います。こうした措置こそ障害者の権利を守ることになるのです。

 嶋本さんは最後に,手話の必要性を伝えました。「日本で日本語がなければ国民はコミュニケーションができません。同じように,ろう者は手話言語がないとコミュニケーションが取れないのです。手話も言語であると広く知ってもらい,認められてもらいたいのです」


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