豊かな自然環境を守る活動をしている市民団体「軽井沢自然景観会議」(羽仁進名誉会長)は12月3日,NPO法人・生物多様性研究所「あーすわーむ」(軽井沢町)の主任研究員福江佑子さんを招き,軽井沢町の軽井沢書店で講演会を開催しました。福江さんは,軽井沢を含め長野県の自然が劣化し,そこで生きる野生の哺乳類が過酷な状況におかれている実態を示しました。特に罠(わな)にかかってしまったキツネやタヌキなどの中型哺乳類は大きなけがをしたり,死に至ったりしていると話しました。
「earthworm」はミミズのことです。ミミズは生物の餌になるだけでなく,土を肥し耕し,たくさんの生命を支えています。それを由来としている「あーすわーむ」は,生態学や動物行動学などの専門家集団で,生物多様性を保全するために,生物多様性調査と野生動植物保護管理,環境教育を行っています。
講演で福江さんはまず草原面積が激減していると指摘しました。日本全体で見ると,国土の13%を占めていたものが1%を下回り,長野県でも16%から3%に減っているそうです。かつては軽井沢も草原が多く,馬が育てられていました。
しかし,草原が少なくなり,そこに生息している生き物が危ない状況に陥っています。半自然草原は,人の手によって維持されてきましたが,開発行為で姿を消したり,放置され森林化したりしています。こうした自然改変の中,長野県の約3000種の植物のうち約900種が絶滅の危機にあるとしています。福江さんは「草原の維持・保護が,軽井沢の自然のオリジナリティー(特性)の維持・保護につながります」と自然環境の保全の意義を訴えます。
また,日本に現存する哺乳類の97種うち長野県には49種が生息しているとされています。しかし49種のうち16種(32.7%)が絶滅危惧種となっているそうです。福江さんは,「シカの増加や分布拡大が植生に影響を及ぼし,送粉者であるマルハナバチが減少したり,食草をシカに食べられてチョウの種多様性が落ちたりと,草原性の動植物の多様性を減少させていると思います」といいます。
シカは,高度経済成長期には減少していましたが,拡大造林などによる人工林の拡大,動物愛護の浸透やリクリエーションの多様化などによる狩猟者数の減少,地球温暖化によるシカの死亡率の減少など,様々な要因が関係して,現在では分布が拡大し,密度も増加したと推測されます。シカの生息数は長野県全域で20万頭前後を推移しているとされています。このうち年間4万頭を捕獲する計画ですが,2016~2019年では年間2万5千頭ほどです。
福江さんは,シカの問題は農林業被害だけでなく,生態系への影響が大きいといいます。シカは,低木や下草などの「下層植生」を食べて尽くし,それが原因となって土壌が流出します。シカが嫌いな植物だけが残り,繁茂し生態系を崩します。小諸市の湯の平での調査で,シカが急増し,オオシラビソの樹皮を食べて剥いでしまい,森林が更新できない状況に至っていることがわかりました。
食害を及ぼすシカやイノシシの捕獲が浅間山麓で行われている,と福江さんは話します。それに伴う錯誤捕獲は少なくなく,正確なデータのある小諸市では,平成27年度(4月1~9月20日)の「くくり罠」(ワイヤーが野生動物の足を括り捕獲する仕組み)だけでも,アナグマやノウサギ,キツネ,タヌキ,ニホンザルなど9種134頭にも上り,カモシカが40頭,タヌキ28頭,アナグマ16頭などとなっています。軽井沢でも少なくないともいいます。「これらの動物たちは,放つのが基本ですが,市町村によっては殺処分と判断される場合もあります」と福江さんは述べました。
くくり罠にかかった動物の様子はどうなのでしょうか。福江さんは,実体験や知り合いからの情報から,次のような事例を示しました。アライグマやキツネ,カモシカは足にワイヤーがくい込み,骨が露出していました。ノウサギはワイヤーに挟まれた両後ろ足が骨折していました。人も猫も犬もかかるケースもあります。福江さんは「錯誤捕獲は,小諸市にはデータがありますが,そのほかの地域では正確なデータはあまりありません」と話します。
くくり罠は,けもの道にかけることが多く,それによる捕獲は無差別的である,動物の損傷が大きい,罠が安価で多く設置できるため行政が管理できない,設置したことが忘れ去られても作動し,かかった動物を死亡させてしまう,などの問題点があると言います。
福江さんは,錯誤捕獲を減らすには,「早急な現状把握や錯誤捕獲が起こりにくい捕獲手法の検討,「錯誤捕獲は問題」という認識の醸成が必要です」と強調しました。