小回りが利き、かゆいところに手の届く、地域の「区」をどうやって作っていくのか。そんな地域運営組織の取り組み事例が、2022年6月15日、オンラインで開催された勉強会(小規模多機能自治推進ネットワーク会議主催)で紹介されました。パブリックビューイングの佐久会場(ワークテラス佐久)=佐久市市民活動サポートセンター主催=には行政職員と市民の計11人が参加し、質疑にも積極的に参加しました。地域活性化につながる具体的な活動が生み出されている一方、地域活動を支える担い手不足などの課題もあることが報告されました。
富山県南砺市の大鋸屋(おがや)地域づくり協議会は、「ビジネス」として、「通所型ミニデーサービス」や「除雪サポート」を行っていると報告しました。通所型ミニデーサービスでは利用者に、弁当代など一定の料金を支払ってもらい、午前9時から午後3時30分まで会話や運動、「ひらすま」(昼寝)などをして過ごしてもらっているそうです。除雪サポートは、高齢者宅へのアプローチを作るための除雪を地元の人などに30分850円で行ってもらいますが、その除雪料金は同地域づくり協議会が支払っています。このほか365日24時間ゴミを出せる「エコ・ステーション」の管理、コロナウイルスのワクチン接種の予約代行などの活動もしています。
宮城県白石市の斎川公民館は、平成30年、31年の小・中学校の統廃合をきっかけにして、「持続可能なまちづくり」を目指し、まずは963人の住民にアンケート調査を実施、823人から回答を得ました。さらに住民のニーズを掘り下げるため、「中学生から29歳」「30歳から49歳」を対象とした集まりを開き、参加者から意見・要望を聞きました(この対象年代以外の人は「参加絶対禁止」だったそうです)。このなかで地域に関わる仕事量が多過ぎると指摘されたことから、男女別にあった敬老会を統合するなどしました。また、住民参加で「枯露柿」(渋柿を干したもの)を作り、若い人たちが高齢者宅に届ける『孫太郎便』や、地区の石仏などを見つけて記録する『斎川宝物マップ』作りもしています。
長野県長野市の大岡地区住民自治協議会は、約840人が暮らす同地区の高齢化率が61.3%と達する「超高齢化社会」となっていると説明しました。人口も2005年の1515人から急減しています。同協議会は地区の現状を「認知」し、そのうえで何をしていけばいいのかの「判断」をして、それに基づいて「行動」していくというロードマップを描きました。まずは住民にアンケート調査を行い、その結果を報告会で示しました。地区の住民は数戸からなる「集落」に愛着を持っているものの、地区全体に対してはそうした意識が低いということがわかったとしています。
3地区の報告後、質疑応答が活発に行われました。なかでも印象に残ったのは次の通りです。
大鋸屋地域づくり協議会の「ビジネス」と行事の違いについて、同地域づくり協議会の代表は「私たちの事業は無駄なイベントや行事はやらない。(利益のあがる)大人の居酒屋、母親たちのカフェ、子供参加の催しなどをしている」と説明しました。地区を担う人材について、「企業などの定年延長の影響で地域づくりと農業で人材不足になっている。とは言っても、Uターン者に地域活動で負担をかけ過ぎないように注意している」と課題を指摘していました。
『孫太郎便』の役割について、斎川公民館の代表は「枯露柿を作って高齢者宅に配るのは高齢者の状況把握が目的だ。突然、男性が家を訪ねてくると警戒すると思い、新潟県村上市高根地区のサンタクロース姿の若い人たちが高齢者宅に物品を配っていたケースを参考にした」と話しました。
アンケート調査の回答内容で、調査前に予想したことが合致した点と合致しなかった点を聞かれた大岡地区住民自治協議会の代表はこう話しました。「合致したのは、地区の役員の担い手が不足しているということ、それに参加したい行事がないということだった。一方、合致しなかったのは、30歳代の人たちが(生活で)苦労しているということと、80歳代の女性で運転免許を所持していない人がいるということだった」。課題については、住民の意識が住民自治協議会に向いていない点、市からの資金だけでは(運営が)難しい点を挙げました。
新しい自治組織を作り、先端的な事例を積み上げている地区や公民館を中心に地域自治を作り直そうとしている地区の事例は、興味をひくものばかりでした。これから新組織を作り上げようとしている地区は、課題が多いものの、目標が見えつつあるように受け止められました。